祐吾が旅立つ日まで約一ヶ月。
毎週末は祐吾のマンションへ泊まることにした。
一緒に荷造りを手伝い、足りないものを買いに行く。
その時間が、とても愛しいものに思えた。

「奈々、これ。」

「なあに?」

ふいに祐吾から渡されたもの、それはマンションの鍵だった。
驚いて祐吾を見やる。

「合鍵だ。勝手に使ってくれていい。使い方はわかるだろ?」

「受け取れないよ。それに、祐吾さんがいないのにここに来ないし…。」

言いながら寂しくなる。
今からこんなことで大丈夫かと、奈々は不安になった。

「前々から渡そうと思ってたんだ。だから、使う使わないは別にして、持ってろ。」

「…うん。」

祐吾の好意をありがたく受けとることにする。
奈々は鍵をぎゅっと握ると、視線を俯きがちにした。

奈々は嬉しくて、でもその一方で寂しくて、祐吾のいない八ヶ月間を憂いてしまう。
視線を上げれば優しい眼差しで見つめてくれる、この幸せが遠くに行ってしまうのだ。

「なんて顔してんだ。」

祐吾が困ったように言う。
だって…と言おうとして、奈々はふわりと包まれ抱きしめられた。
二人はしばし、お互いの温もりを確かめ合うように抱き合った。

「奈々、これも。」

言われて体を離すと、小さな箱が渡される。
何だろう?と開けてみると、キラキラと小さなダイヤモンドが散りばめられた指輪が入っていた。

「…祐吾さん。」

困って見上げると、祐吾はその指輪を手に取って、奈々の左薬指にそっとはめた。
細身でシンプルなデザインの指輪は、奈々の細い指によく似合っていて、更に彼女を引き立たせた。