「あ、夜々さんと師匠にも食べてもらおっか」

お隣の家のおねえさんとその母である師匠にはよく作り過ぎたものを持って行っていた。

「………」

それを思い出した私、一時停止した。あれ? い、今の今まで、師匠のことに気づかなかった? そんなことを師匠に知られたら――

「……師匠にしばかれる……」

顔から血の気が引いて行くのを感じた。

おねえさんこと夜々さんは私の母代りをしてくれる人で優しいのだが、師匠はかなり手厳しい。

私に礼儀礼節や武道の基礎を教え込んでくれたから師匠と呼んでいるのだけど――正直な話、あまり折り合いはよくない。

と言うか、師匠には一方的に嫌われている。

師匠が、そんな私の面倒を見てくれたのは他ならぬ在義父さんの頼みだからだろう。

「………」

師匠が、マナさんの仕組んだ見合いの件に噛んでいるのは、私を早く独り立ちさせるためだろう。

――もっと簡単に言えば、この家から早く出て行ってほしいのだろう。

「……て言っても、先生と結婚するわけないしなあ……」