「………」
あくまで自分は、華取と在義さんを政略から護るための偽モノ婚約者。
在義さんには、そんなことでは返しきれない恩をたくさんもらっているから、その位置に不満や文句はない。
だから、それだけでは嫌だと思ってしまった心を戒めねばなるまい。
「……それだけって、どれだけだ?」
……昨日から、思考の隅に意味のわからない感情や単語が落ちていることがある。なんだこれ。
「華取には……言わない方がいいよな」
在義さんは承知している、俺の生い立ち。聞いて気分のよくなる話でもない。
そんなこと、わざわざ言う必要はないだろう。