いや、意味としては恋人だけに使われる言葉ではないから、他意は……たくさんありそうだな、あいつ。
遙音は帰り道、既に色々邪推しているだろうが紹介する気はない。そもそも彼女じゃないし。
弁当箱を返すために洗って、華取が渡してきた袋に戻した。
「………」
当然のように渡されたそれ。少し見つめてしまった。
俺自身、母と呼べる人がいない育ちをしている。
華取の母――在義さんの妻がとうに亡くなっているとは聞いているが、俺が在義さんと知り合うより以前のことなので、どんな人かまでは知らない。
在義さんが妻と娘の写真を持ち歩いているらしいとも噂はあるが、お目にかかったことはない。
華取の父という意味で在義さんの話を出せば、俺には父もいない。祖父母もいない。
物心ついた頃から、血縁関係のない、龍さんの実家で育っている。
「……あまり近づかない方がいいよな……」
ふと、そんなことが口をついた。