登校してすぐの華取が、廊下にいた自分を観察するような瞳で見ていたのは承知している。

目を皿のようにしたその様子が面白くて、つい華取の方を見て笑ってしまったのは俺の失態だ。

そうしたら華取はびくっと肩を跳ねさせて、逃げるように階段の方へ急いで行った。

……まさか、忘れてはいないよな?

色々と。

昨日、昼休みにここを訪れるよう約束を取り付けたけど、あの時はかなり眠そうだった。

まさか眠気に負けて忘れているかもしれない。いや、そもそも昨日のこと事態を悪夢とか思っている可能性もある。

……連絡先は聞いてあるから、またそう伝えれば――と、机に放りだされていたスマートフォンに手を伸ばしたところで、控えめなノックの音がした。

俺の周りにここでそういうことをする人はいないので、「どうぞ」と答える。

そろりとドアを引いたのは華取だった。

いつもと同じタートルネックのアンダーシャツに制服。

……昨日の見合い事件は、俺にとっても夢ではなかったようだ……。

同じことを華取も思っているのか、俺を見て何度か瞬きをした。

「時間作ってもらって悪かったな、華取」