「夕飯のお礼です」

また在義さんに下手な疑惑を持たれるのは嫌だったので、そう誤魔化す。

在義さんは、少し嬉しそうで、少し淋しそうな微笑を見せた。

食器を片付けたあと、悩んでいたことを口にした。

「やっぱり、挨拶くらいしておきたいんですが……」

時間としてはもう眠っているだろう。それでも、一応の礼儀というか。

「ああ、二階の突当りの部屋なんだ。起きていたら、ノックすれば出てくるだろう」

意外、親バカな在義さんがあっさり許可した。……いいのか?

とわざわざ問い返すのも野暮なので、着ていたジャケットを持って階段を上った。

一度声はかけて、反応がなかったらすぐに帰ろう。

もし起きていたら、連絡先だけ訊いて早く休ませよう。そう決めて、言われた部屋のドアをノックする。

「はーい」

少し眠たげな声が返ってきた。起きていたのか。

「どうしたー?」

俺が名乗る前にドアが開けられ、顔を見せた華取はびっくりしていた。

いつも結んでアレンジしている黒髪は、寝る前だからか解かれていて、それが面差しの大人っぽさに拍車をかけるようだった。

「あれ、先生?」