「早くに母親を亡くしていて、私もあまり家にいられなかった。育児はお隣に任せてしまった時期もある。それなのに、帰ってきたら新しい料理を覚えているし、掃除もしようとがんばっている。……あの子の叶えられる幸せだけは、私は譲れない」
「………はい」
これはたぶん、在義さんの審査だ。
仮とはいえ、対警察内部用に結ばれた婚約。密約。俺をはかっている。
在義さんが、箸を置いた。俺も同じように姿勢を正す。
「流夜くん、素直に聞かせてほしい。咲桜のことをどう思った?」
どう思った。思う、ではなく、その形で在義さんは訊いた。
問われて、考える。この場ではどう答えるのかが最善か――ではなく、確かに自分は、華取をどう思ったかを。
そちらで答えるべき気がして、考えた。