「はい? あ、お腹空きました? 今持って行きますね」
在義父さんの同僚がよく来るから、突然の客にもなれている。
それが教師である神宮先生というのはなかなか慣れないけど、今いる先生は『父の知人』なのだ。
……うーん、頭の中で納得するのにまだまだ時間がかかりそう。
この先生は、『神宮先生』とは別人として認識した方が楽そうだ。
……つまりそれって先生の処世術? 偽装二重人格? の腕がすごいということだろうか。
在義父さんの近くにいる人なら納得の所業だけど。
「悪かった。見合いの話、言った通りに出来なくて……」
そのことを気にして声をかけてきたのか。律儀だなあ。
「気にしてないですよ。あのあとマナさんから色々聞きましたから。こんな乱暴なだけの小娘に価値なんかないんですけどね」
先生に、軽く笑って答える。
マナさんがやりたかったのは本当のお見合いなんかじゃない。
今後予想される政略的な婚姻から、私と在義父さんを護るための位置に誰かを据えることで、それに選ばれてしまったのがたまたま先生だったということだろう。
先生は先生で、その位置に置くにはちょうどいい目的があった。