「そう。咲桜ちゃんは華取先輩の一人娘だからね。こう言っては難だけど、政治的利用価値みたいなものがあるの。それに、華取先輩自身が警察内では異端だから、むしろ縁を結びたい人もいるわ。つまり、娘である咲桜ちゃんと結婚すること。そういったとき、咲桜ちゃんに恋人よりも婚約者がいれば追い払える。相手が華取先輩も信頼する流夜くんなら、強気に出られない奴らが大半になるから。どうかしら。流夜くんは先輩の娘である咲桜ちゃんを助けるためと思って、咲桜ちゃんは先輩と自分のためにも、仮婚約――もし咲桜ちゃんが縁談を迫られたときの防御策で名乗れる相手として置いておくのは」
「「………」」
先生と私、揃って黙ってしまった。
私は、自分にそんな付加価値があるなんて思いもしなかった。
隣の在義父さんを見ると、明後日の方を見ている。
……その可能性は知っていたのか、親父殿。
「わかった」
口火を切ったのは先生だった。
「そういうことなら受ける」
「えっ、先せ――」
いいの? そんなことを言ってしまって。
泡喰った私をなだめるように、先生は穏やかな口調で話した。