「龍生先輩。……華取先輩、あたしのこと怒ってました?」
「あ? なんでだ?」
愛子が不安そうに訊いて来た。
「いや……溺愛の咲桜ちゃんに、正当にこじつけられる理由とはいえ、婚約なんてさせたから……」
もにょもにょ……。言い終わる前に、愛子はカウンターに突っ伏した。
俺はフライパンに油を流す。愛子は結構味覚が子供だ。作っているのはオムライス。
もう遅い時間だが、仕事あがりでかけつけたなら夕飯もまだだろう。
「いいんじゃねえ? あいつも娘離れしなくちゃいけねえしよ。あいつにとって桃子が一番重い存在であるように、娘ちゃんにもそういう存在があっていいはずだ」
「そう、ですかねえ……」
「そうだよ。相手を流夜にしたとこはよかったと思うぜ。流夜なら在義も反対出来ねえ」
「そこはあたしも自信持ってるんですけど。……咲桜ちゃんに悪いことしちゃったかなあ……」
ああ、一番の悩みどころはそこか。