挙手する愛子に、在義と同時に「却下」と応じた。
連絡先知らないのか? 在義がこちらを見て来るから、俺は目線を逸らした。教えてないわけではない。教えたものから変えただけだ。
「ん、在義。お呼びみてーだぞ」
「……ちっ」
「華取先輩……社会的にそれまずいですからね? 仕事場では隠してくださいよ?」
在義の携帯電話が鳴ったことを指摘すると、まず在義舌打ち。さすがに愛子が渋面になった。
「当然だ」
在義はすげなく返し、荷物をまとめた。
「では、私はこれで。春芽くんももう出なさい」
『華取本部長』にすぐさま顔を切り替える在義。慣れたもんだな。俺は相棒の長年の成果を見る。
「えー、あたしせっかく時間取ったんですよー。龍生先輩のお呼びだと思ってー」
「語尾を伸ばさない。私が呼び出したんだ。春芽くんは騙されただけだろう」
「……華取先輩、完全に切り替わってません。若干性悪残ってます。……はー、まあそうですよね。龍生先輩からお話なんて、あたしにはありませんもんね……。わかりました、帰ります」
……ちらちらこちらを見ながら言ってくる。……はいはい、わかったよ。てめえも随分優しくなったなー。年か。