「なんで愛子来るのにここにすんだよ」
「龍生のところだって言えば飛んでくるだろう。仕事も片付けて」
「ざけんな! 俺があいつ苦手なの知ってんだろ!」
思わず声を荒らげても、店内には同業者しかいないので気に留めない。俺らの喧嘩は日常茶飯事だ。
「お前のところぐらい言わなきゃあれこれ言って逃げるからな」
「くっそ性悪……! おめえ娘ちゃんにその性格ばらすぞ」
「咲桜はお前より俺を信じるよ」
「……今は流夜のが信じるような気がするけどなー」
「………………」
あ、効いた。在義が六秒ほど固まった。
適当に言ったのに、まさか本当にあの偽婚約者の仲が進展しているのだろうか。
在義は、元部下という体面上『春芽くん』と呼んでいるが、普段は『愛子』と呼んでいる。
娘ちゃんは、その呼び方は聞いたことはないはずだ。
「おい? なんだ、流夜に掻っ攫われそうなのか?」
「………………」
おお、どうやらガチのようだ。更に落ち込んだ。
余計なことは言うくせに、肝心なことはあまり言わない在義だ。