行き場を失くした俺の手は、刹那、空で留まってから引いた。

「うん……。ただ、……」

「ただ?」

「……母さんが現れなかったら、たぶん父さんと結婚してた人」

「―――………」

それは、また……重い過去が出て来たもんだ。

「そんな、夜々さんはずっと優しい人なんだけど……私が一方的に、負い目があって……さっきはかなり緊張してたみたい。支えてくれてありがと」

言って、咲桜は頭を抱えて天井を振り仰いだ。

「あーもうだから私は私が嫌いなんだよ。夜々さんの幸せまで奪って。父さんも再婚だってなんだってしていいのに、未だに母さんに未練の残してるのか知んないけど、いい加減自分のために生きていいのに……」

「………」

俺の位置からは、咲桜の顔は手に覆われている。

ちょうど指先が目にかかっていたけど、そこからこぼれるものが確かに見えた。

先ほどは歯止めがかかった衝動が、今度は背中を押す。

咲桜の頭を抱えるように抱き寄せ、自分の胸辺りに顔を押し付けた。