「だから君には――勿論、今まで咲桜に関係がなかったから、ていうのもあるけど、見せなかったんだよ。不用意に傷つけたくはなかったから」
「………」
「……傷付いては、いないようだね」
「はい。……むしろ、俺の方が非道いことを思っていると思います」
「非道いこと?」
在義さんが問い返す。
「……咲桜の母君が、どんな思いでいたか、俺には計り知れないところです。でも――、すみません。俺は咲桜に逢えて嬉しい。咲桜がいてくれてよかった。咲桜が生まれてきてくれて、ありがとう、咲桜を生んでくれて、ありがとう、と……桃子さんに、思ってしまいました。在義さんにも咲桜にも、母君も、俺の方が傷つけてしまうことを思ったかもしれない……」
罪咎と、自分を断罪した桃子さん。
それでも、その罪の末だとしても――咲桜の存在は、掛け替えがない。咲桜に巡りあえて、自分は幸せだ。
「……桃は、本当に自殺ではないよ」
「………」
在義さんの声は穏やかだった。