咲桜の父が誰だか、名前しかわかりません。名前も、本当かどうかはわかりません。気づいたら私は、その人とずっと一緒でした。記憶が曖昧になる時間です。

 在義さんに見つけていただいたとき、私はその人のことも忘れていました。

 でも、少しずつ思い出して……いいえ、背けていた目が、向いてしまって。

 その人は、罪人でした。

 どのような罪を犯した人か、そこまでは思い出せませんでした。ただ、罪を犯した人。ゆるされない罪を犯した人であるという、認識だけはありましたこと、思い出しました。

 やさしかったです。

 わたしには、自分のことがなにもわからないわたしに、その人はやさしかった。

 それでも気づいたらわたしは、在義さんのところにいました。

 その人のもとを逃げ出したのか、それとも捨てられたのか。ごめんなさい、そこはわかりませんでした。

 見つけてくださったのが、在義さんでよかった。

 わたしのせいでお仕事をなくしてしまったり、謝っても謝り切れない優しさを、あなたにいただきました。

 見つけてくださって、愛情をくださって、ありがとうございました。

 在義さんの愛情と、咲桜の存在だけが、私が持つことをゆるされた真実でした。

 ごめんなさい。わたしはやはり、あなたの傍にいるべきではなかった。