『在義さんへ

 今までありがとうございました。

 在義さんのおかげで、私は短いながら幸せな時間を過ごすことが出来ました。

 何度生きても、在義さんに出逢えた人生に勝る生き方はないと、言い切れます。

 叶うならば、わたしの本当の名前を呼んでもらいたい、と何度も思いました。

 何度も思い出したい、と願いました。

 けれど、なにもわからなくて……さいごまで、ごめんなさい。

 わたしは、咲桜の命に手を伸ばしてしまいました。触れることなく引っ込めたけれど、咲桜は何かを感じたようで、意識を失ってしまうほど怖い思いをさせてしまいました。

 あれほど愛している子だからこそ、わたしの娘である事実がゆるせませんでした。

 咲桜は、ただ純粋に在義さんの娘であってほしかった。わたしなんかとは関係ない方がよかった。

 桃子の名も、咲桜の名も、在義さんからいただきました。

 在義さんが連れて行ってくれた、桜の中。咲き誇る桜を見て、隣にいてくれたあなたを見て、娘に名づける勇気がもらえました。