「聞いたのか……」

俺は、咲桜から聞いた母の話を、在義さんにも話した。

在義さんが知らないわけがないし、咲桜が気にしていることを知っておいてほしかった。

咲桜の出生がどうあれ、咲桜の父親は在義さんしかいない。

リビングにL字に置かれたソファに座っていると、距離的にキッチンの咲桜には聞こえないようだ。在義さんが言った。

「自分から話すだろうとは思っていたけど……思ったより早かったな……」

在義さんは口元を片手で押さえ、独り言ちている。そしてなにかを決めたように顔をあげた。

「流夜くん、今夜、龍生のところへ来られるか?」

「龍さんのところ、ですか? 《白》へ?」

「ああ。咲桜が話したなら、本当のことも話しておきたい」

「………」

真剣な瞳で言われて肯いた。

本当のこと? 咲桜が話した以上のことが……?

「それに」

にぃ、と在義は不気味な笑みを見せた。

「昨日まで『先生』と『華取』って呼んでたのに……どうしたのかなあ、とも思うしね」

「………」

……この人のところへ来ると、天国には地獄もセットなのだと感じるようになった。

シメられる覚悟しねえと……。