軽く私の額を小突いて、ベッドを降りていく。少し淋しそうに見える背中。
……記憶にない自分はなにかやらかしたようだ。
「流夜くんっ、私、なにし――」
あれ? 流夜くん?
咄嗟に出た呼びかけに、自分で驚く。
流夜くんのことは『先生』と呼んでいたはずなのに――そう言えば、『流夜って呼べ』とは言われた記憶がある。けれどどこか、そこまで至れずにいたのに。
今自分はさらりと『流夜くん』と呼んでいた。もう『先生』という単語が抜け落ちている。
「咲桜? 今日は学校だろ。早目に家に送っていくから、支度しろ」
『咲桜』。流夜くんの呼び方も変わっていた。昨日までは『華取』だったのに。な、何があった……?
ものすっごく戸惑った、けど。……どこかくすぐったく、嬉しい。気になる背中の淋しさ。でも嬉しい呼び方。
「はいっ」