愛らしい、だけじゃない。……愛おしい。この子が。
自分だって辛いくせに、こうやって誰かを抱きしめることが出来る。
「……ありがとう、咲桜」
本当にこの子は強い。だからこそ不謹慎ながら、さきほど泣きついてくれたことが嬉しくもある。
しばらくそのままお互いが腕の中にいた。
偽モノ婚約者。
教師と生徒。
家族になる、という言葉の意味をちゃんと理解しているかは不安だけど――このまま。咲桜を抱きしめていられる時間だけ、一緒にいることをゆるしてもらえたらいい。
咲桜の父親の在義さんに、咲桜の親友に、そして世界に。
――この子が、俺の一番大事な人だ。