さっきだいぶ泣いたから、水分をなくしているんじゃないだろうか。
顔を覗き込むと、首を横に振った。とられた手に力がこもった。……淋しそうな力だ。
「……すみません、でした……」
咲桜は、俯いて意気消沈している。
「あんな、こと話してしまって……。忘れてください」
触れている手が震えていた。……どれほどの恐怖だったか。
自分の命を否定されたようなものだ。それには答えず、手を握り返す。
「先生、って呼んだよな。さっき」
「……え?」
咲桜の顔があがる。こういう素直な反応は咲桜の長所だ。
「何回も言ってたろ。名前で呼べって言ったのに」
「それは――無理ですよいきなりっ」
ちょっと泡喰った様子がいつもの咲桜で、安心する。大丈夫。この子は完全には呑まれていない。