洗い物が終わった後にほどかれた長い黒髪はそのままで、頬にかかる。

それを払ってやっても起きる気配はない。

咲桜は学年の女子の中では一番背が高いけど、線が細い。色々頑固な面も見たけど……。

生まれてきてくれてありがとう、とは、まだ言えない。言えるのは、生きていてくれてありがとう、だ。

このまま寝顔を見ていたい気持ちが押し寄せるが、そろそろ在義さんの反応も心配になってくる。

あの娘バカさんに色々バレて、逢えなくさせられてしまったらたまったもんじゃない。やっと見つけたのに。

軽く髪を整えてから、布団をかけてやる。

おやすみ。俺のことを怒ったんだから、お前もゆっくり休め。

リビングで、今日吹雪のところへ行けなかった埋め合わせの作業でもしよう。

そう思ったところで、また吸い寄せられるようにベッドの淵に戻ってしまう。

……それを繰り返していたアホのところへ、テーブルの上のスマホが着信を告げた。

誰だこんなときにっ。

起こしてはまずいと慌てて出ると、深夜もお構いなしが安定の降渡だった。