「母さんが死んだ日のこと、憶えてるのに、わたし、死んだ瞬間は、知らないんです」
「………」
「母さんが、わたしのほっぺた、触って、『ごめんね』、って……言ったんです。それから、次にある記憶は、ただ父さんが母さんの名前、呼び続けて、母さんは、動かなくて……。それから、首に何か触ると過呼吸、起こすようになっちゃって……」
咲桜の呼吸を楽にするために空けていた隙間が、もうない。ただ、抱きしめる。
「母さん、一人で死んじゃったんです……。私を、つれていかなかった……。……なにもない、私だけが生き残ってしまって……」
「………」
「仕事を犠牲にしてまで結婚した母さんが死んじゃって、その、父親もわからない子供だけ残されて、どうしろって言うんですかね。父さんに、申し訳なさ過ぎですよ、わたし……」