「別に風邪なんてないけど――」
「あるでしょう、ほら」
すっと、額に華取の手が触れた。
外の空気に触れていた手は、ひんやりしていて気持ちがいい。
突然の行動にまた驚いてしまったが、華取は呆れたようにため息をつく。
「やっぱり熱、ありますよ。先輩が言っていたんです。先生って自分に無頓着だから、熱あろうが調子悪かろうが私事優先で現場とか警察署とか行っちゃうから、今日くらいは止めてやってって」
「……通常でそれなんだから、心配する必要もないだろ」
何故その程度で行動を制限される? 俺は首を傾げる。
俺の体調が、私事――学者立場の方――には影響させたことはない。
放っておいて治っているんだからいいだろう。
そう言うと、華取に呆れた顔をされた。
「そうかもですが、病人を仕事に行かせるわけにはいきません」
……どうやら華取の正義感の琴線に触れてしまったようだ。
靴を脱いであがって、そのまま俺の背中を押してきた。