先生が出て行ってしまったその背を見送っていると、龍生さんがテーブルに何かを置いた。
「まさか流夜に連れられてくるとは思わなかったよ」
笑いを噛み殺している龍生さんは、どうやら紅茶を淹れてくれたようだ。
「私も……まさか先生が父さんと知り合いとは思ってませんでした」
「まー、あいつら秘密にしてるからなー」
やっぱりそうなんだ。
たまに、家に置いてある書類なんかのお届けは頼まれていて今日もそれだったのだけど、父さんは仕事の方には私は関わらせないっていうスタンスだった。
なのに、在義父さんの方にいる先生にこんな風に関わっちゃってよかったのかな……? 仕組んだのはマナさんだけど。
あと、たぶん私も、先生へのお弁当作りはやめたくないと思ってる。
「ねーねー、咲桜ちゃん? 咲桜ちゃんだよねっ」
やってきたのは、先ほど龍生さんに黙らされた、先生よりも長身の男の人だった。
漆黒の髪は鴉の羽のようで、野性的な容姿に人懐っこそうな瞳が見える。
真っ黒のスーツに、ネクタイはせずにダークカラーのシャツ。
こういう人を言い表すのは……たぶん、美丈夫とかいうやつだ。