《白》を出て少し歩くと、吹雪の勤める上総警察署に着く。俺が、目立った事件がなくて
も毎夜来ているのはここだ。

涼しくて心地いい気温だ。ときおり吹き抜ける風は緑のその先に手を繋いでいる。

――手が置かれた、あの子の長い髪。触れたのは、一瞬だけ。

自身の右手に視線が落ちた。

あの一瞬は、この先に、あの子はいた――……?

隣の吹雪が、特に起伏のない声で話し出した。

「龍さんが話したこと、お前が気にすることじゃないんだよ」

「………」

「どうしたのさ、流夜。そんなに娘さんのこと気に入ったの?」

「………」

答えられない。

気にしないことに、なんて、俺にはもう出来そうにないからか。

吹雪はため息を一つ吐いた。目の前はもう吹雪の職場だ。