「それは俺が訊きたい。華取が在義さんの娘とは知っていたが……」

ほら、こういうところが信じられない、と思ってしまう。

『神宮先生』がこんな粗雑な言葉は遣ったところなんて知らない。

いつも少し困ったような笑顔をしていて、はっきり言って弱そうな印象しかなかった。

それが在義父さんのことを、『在義さん』と呼ぶ仲って一体どういうことなんだろう?

「うん、私の父は在義父さんですね。なんで先生が在義父さんのこと知ってるんです?」

「………マジか」

神宮先生は片手で顔を覆って大きく息を吐いた。

私は脳内シミュレーションをしてみた。

その動作を神宮先生がすると思うと……駄目だ、想像すら出来ない。

それだけ神宮先生は穏やかな先生という認識が強かった。

はたまたそれは私だけの誤認だったのだろうか?

「――華取。少し確認してもいいか?」

「なんでしょうか。……なんでそんなに近いんですか?」

囁くほど顔を近づけて来た神宮先生に、疑問を抱く。

神宮先生はそれを察してか、指で隣の部屋を指した。

そして更に顔を近づけ、耳元にこそっと囁いた。

「隣に、愛子」

いるのか。