吹雪は立ち上がり、勝手にカウンターの中に入った。

そして棚を漁って茶を作りはじめる。

龍さんはそれを横目に黙認してから、カウンターに額をつけた俺と、吹雪の言ったことを噛み砕いているためか黙っている降渡に目を遣る。

「で、お前らは知らなかった、と」

問われて、口をもごもごさせるのは降渡だ。

「いや、知らなかったっていうか……うん、知らなかった」

「降渡、減点三。知った仲だから慢心してたな」

「うっ……」

突きつけられた評価に、降渡は苦虫を噛んだ。

龍さんは警察を辞めたあとは探偵業をしていた時期がある。

そのため、私立探偵の降渡は『二宮龍生の後継』と目されることが多い。

俺が黙っていると、龍さんがぼやき半分の響きで言った。

「俺んとこで愚痴ってったってのは、話せってことだからな。訊くか? 流夜」