そんな第一声と共にやってきたのは、この町の地主である鷹司さんだ。

 レインコートで現れた。昨日、びしょ濡れになったからだろう。

 それにしても、まさか今日もやってくるとは。雨に濡れて風邪でも引いてしまったのでは?と心配していたが、ご覧の通りピンピンしている。

 ホッとしていいのか、悪いのか、よくわからなかった。

「あ、えっと、いらっしゃいませ」

「むむっ! 山田幸代の孫娘、そんなところにいたのか。驚いた」

「すみません」

「もっと、存在感を示しておいたほうがいい」

「いや、それが、なかなか難しくて、ですね」

「ふむ。どうすればいいものか」

 鷹司さんは、真剣に私が存在感を示す方法を考えてくれているようだ。
 きっと、悪い人ではないのだろう。

「職場でも、存在感がなくて、その場にいないと思われることがあり、“座敷わらし”のようだとも言われていまして」

「座敷わらし、か。善き存在ではあるが、生きている人に使う言葉では、ないだろうが」

「ええ、言われてみれば、そうですね」

 座敷わらしは幸せをもたらしてくれる存在だ。別に、呼ばれ方なんてどうでもいいと考えていたので、気にも留めていなかった。

「そういうのは、きちんと拒絶しておいたほうがいい」

「別に、いいじゃないですか。私がどう呼ばれようが」

「よくない。名前は、大事なものだ。それに、そうやって自分を雑に扱うと、相手もお前を雑に扱うんだからな。尊厳は、誰も守ってくれない。自分で守らなければ、いつの間にかすり減って、なくなってしまうのだよ」

 鷹司さんの言葉に、頭を鉄のハンマーでガン!と殴られたような感覚となる。

 彼の言う通りだ。私は、周囲に軽んじられて、雑に扱われていた……ような気がする。

「しかし、偉いぞ。座敷わらしと呼ばれていたのは前の職場、ということは、そこから抜け出してきたんだな」

「え、ええ」

「これからは、きちんと自分を守るように」

 尊大な様子で言い、鷹司さんは懐に入れていたらしい何かを差し出す。
 ちりんと、涼やかな音が鳴った。金色の鈴に、赤い飾り紐が付いた可愛らしいものだ。

「これは?」

「邪祓いの鈴だ。これを帯にでもつけて、リンリン鳴らしておけ。存在感が増すだろう」

「えっと、私に、くださるというのでしょうか?」

「それ以外に、差し出す理由がどこにあるんだ」