葵お婆ちゃんも私と同じく、思い出が残る家を守りたかったのかもしれない。介護士の派遣は、おそらく家族に経済的な負担をかけさせないようにするためだろう。

 胸が、ぎゅっと締め付けられる。

「すみません、長々と話してしまって。あの、しばらく、私が祖母の家に住むので、お店にも訪問させていただきますね」

「あ、そう、なのですね」

 なんでも、お孫さんは最近離婚したようで、新居を探していたらしい。葵お婆ちゃんのことも心配なので、一緒に住もうかと考えていた矢先の事件だったようだ。

「祖母が帰ってきても、私が支えますので」

 その言葉を聞いて、安堵する。よかった。葵お婆ちゃんとマリーちゃんの暮らしを、見守ってくれる人ができて。

 お孫さんは会釈して帰っていく。その後ろ姿を、つごもりさんと見送った。

 その瞬間、手のひらにある満月大神の紋章が光った。

「うわっ! な、何?」

「お婆ちゃんの願いが、叶ったから」

「そ、そうなのですね」

 葵お婆ちゃんの願いは、“この町で、マリーと楽しく暮らすこと”。

 元気になったら、お孫さんと共に仲良く過ごしてほしい。

 空を見上げると、先ほどまで太陽を覆っていた雲がどこかへ流れていった。

 気持ちがいい晴天だ。

 残りの営業時間も頑張ろうと、気合いを入れ直したのだった。

 ◇◇◇