「今日は、焼き菓子なのかい?」

「はい。イチゴのシフォンケーキを作ってみました」

「おいしそうだねえ。いただいていこうか」

「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」

 庭に案内すると、いつもと様子が違っていたので驚いた。

 なんと、日よけの野点傘(のだてがさ)が設置され、緋毛氈(ひもうせん)を敷いた腰掛け台が用意されていたのだ。江戸時代のお団子屋さんみたいな雰囲気である。

 腰掛け台には背もたれが付けられていて、ゆっくり休めるよう座布団が縫い付けてあった。

 近くにいたつごもりさんが、何かを成し遂げたような表情でいるのに気付く。

「わ、これ、つごもりさんが作ったのですか?」

 淡くはにかみながら、コクリと頷いていた。

「おじいちゃん達、おばあちゃん達、背もたれないと、辛そう、だったから」

 なんていい子なのか。頭をよしよししてあげたい。見た目は成人男性なのに、なぜか犬の姿で頑張って働いている姿が浮かんでしまったのだ。

 つごもりさんは葵お婆ちゃんに手を貸し、腰掛け台に座ってもらっていた。

「はあ、背もたれがあると、楽だねえ。すてきなものを用意してくれて、ありがとうね」

 その反応を耳にしたつごもりさんは、照れくさそうにしていた。

「それにしても、この前ここにきたのはいつだった……?」

「七日前でしょうか?」

「ああ、そうだ。マリーや。七日間も、散歩に行けなくて、ごめんねえ。文句も言わないで付き添ってくれて、本当に、偉い子だよ」

 具合が悪くて、寝込んでいたらしい。葵お婆ちゃんは独り暮らしなので、びっくりしてしまう。

「そういえば、半年前に入院していたとおっしゃっていましたよね?」

「そうだけれど、薬を飲んでいるから、大丈夫だよ」

 病気は自分で診断できるものではない。不調を感じたら、病院に行ったほうがいいだろう。

「お医者様にはかかったのですか?」

「いいや、めまいが酷い上に、疲れが取れなくってね。しばらく寝たら、治るんだよお」

 二日に一度、デイケアの介護士が通っていたので、心配はいらないという。

「今日はこの通り、元気!」

「よかったです」

「この町で、マリーと楽しく暮らすことが楽しみだから、ずっと元気でいないとねえ」

「そうですね」

 よくよく見たら、顔色があまりよくない。本当に、大丈夫なのだろうか。