「久しぶりだな」

「あれ、お祖母ちゃん、最近作ってなかったのですか?」

「ああ。これはお供え用じゃなくて、あんたが好きだったから、作っていたんだろう」

「そうだったんだ」

 祖母が笹だんごを作ったという一報が届いたら、飛び上がって喜んでいたような気がする。それほど、好きだったのだろう。祖母もそれを知っていて、私のためだけに作っていたようだ。

「覚えているか? 山の神社に笹だんごをお供えにやってきたときの話を」

「えっと、小学生くらいのときの話ですか?」

「ああ。あんたはお腹が空いたから、笹だんごを食べたいって、泣き叫んだんだ。あまりにも大きな声だったから、山の上にいた僕にまで聞こえていたんだよね」

 そういえば、そんな記憶もあるような、ないような。

「きちんとお弁当をもってきていたのに、あんたは笹だんごを食べたいって、幸代にせがんで」

「あー……思い出しました」

 そのとき、どうしても笹だんごが食べたかったのだろう。私は涙ながらに笹だんごを食べさせてくれと訴えたのだ。山の、中腹辺りで。

「幸代はこうと決めたことは絶対に曲げない。それなのに、あんたが笹だんごを食べたいって泣き叫んだら、笹だんごを与えてしまったんだ。全部、僕の笹だんごだったのに」

「その節は、大変な失礼を」

「本当だよ」

 そっと、もちづき君に笹だんごを差し出す。

「見た目も匂いも、幸代の笹だんごそのままだ」

「お祖母ちゃん直伝ですからね」

 きちんと、よもぎ粉も買ったものではなく、自家製だ。犬の散歩コースになっていない川辺で摘んだものである。

 よもぎ粉は、乾燥させたよもぎをすり鉢で擂(す)って、オーブンで焼き、再びすり鉢で細かくして、ふるいにかけたものを使う。これも、祖母から習ったものである。

 春は桜の塩漬け作りに、よもぎ摘みからよもぎ粉作りと、忙しい。これから、裏庭の梅を収穫して梅干しを漬けなければならないだろう。次から次へと、仕事は尽きないのだ。

 もちづき君は笹を剥ぎ、だんごをパクリと食べた。呑み込んだあと、お茶を一口。

「おいしい。昔と、変わらない味だ」

「よかったです」

 お墨付きをもらえたので、お店に出しても問題ないだろう。

「そういえば、今日からシフォンケーキも始めるんだっけ?」

「はい」