疑問に答えてくれたのは、良夜さんだった。

「人の願いが叶うと、神通力が高まります。その、証でしょう」

 佐々木さんは祖母の作った桜まんじゅうが食べたかった。奇しくも、私は願いを叶えることとなったらしい。

「あの、私の神通力って、なんなのでしょうか?」

 満月大神にお仕えする巫女となったわけだが、不思議な力はいっさい感じない。
 神通力が高まったら、何か特殊な能力に目覚めるのだろうか?

「歴代の巫女の中で、幸代は抜きんでて優れた巫女でした。大抵の巫女は、目に見えるような能力は、ないのですよ」

「あ、そ、そうなのですね。ではこの先、神通力を高めても、特に何もできない可能性があると」

「ですね」

 なるほど。地味で存在感のない私らしいオチだ。
 でもまあ、誰かの願いを叶えるというのは、気持ちがいい。
 巫女として、頑張ろうと決意を新たにした。

 もちづき君は夕方まで、韓流ドラマと漫画を楽しんでいたようだ。スナック菓子のカスも、三袋くらい放置されている。驚くほどの、ぐうたらぶりだ。

 考えていることは筒抜けなので、もちづき君にジロリと睨まれてしまった。

「おい、僕は神だからな!」

「はい。もちづき君は、神様です」

「先ほど、閉店しました」

「そう。お疲れ」

 本日の売り上げと、貰ったイチゴをもちづき君に奉納した。

「売り上げの三千円と、イチゴか。初日にしては、まあまあ頑張ったほうだろう」

 もちづき君はつごもりさんに、売り上げとイチゴを祭壇に持っていくようにと命じる。イチゴの他に、食材が入ったカゴを持っていた。私も、あとに続いた。

 物置だった部屋に、祭壇が作られていた。
 三段になった祭壇の一番上には、満月みたいにまん丸な鏡が輝いている。目にした瞬間、特別な何かというのがわかった。

「あれは、神器(じんぎ)、満月鏡。神様の、依り代」

 やはり、神聖なものだったのだ。思わず、拝んでしまう。

 二段目に置かれているのは、日本刀。柄、(つば)(さや)、すべて黒い。

「こっちは、三日月刀(みかづきとう)。月を模して作った、暗闇を切り裂く刀」

 なんだかカッコイイ。ちなみに、刀を引けるのは満月大神だけなのだとか。

 三段目には、神酒に野菜、乾物、卵や餅、お菓子に果物などの神饌の数々が供えられている。

「神饌は、可能な限り、毎朝入れ替える」

「了解です」