いただきますだけでなく、ごちそうさまに当たる和歌もあった。なんて優しい人なのか。思わず、手と手を合わせて拝んでしまった。

「いただきますの時に詠むのは、この世のすべての恵みは、天照大御神(あまてらすおおみかみ)のご加護のおかげです、という意味。ごちそうさまの時に詠むのは、食事の度に、神様に感謝しよう、という意味」

「な、なるほど。ありがとうございます」

 メモもあるので、大丈夫だろう。良夜さんは渋々といった感じで、二回目の和歌を詠む。いただきますのときと同じく、一礼一拍手をした。

「――たなつもの (もも)木草(きぐさ)も 天照(あまてら)す 日の大神のめぐみえてこそ――」

 残りの人達は息を合わせ、和歌を詠む。

「――たなつもの (もも)木草(きぐさ)も 天照(あまてら)す 日の大神のめぐみえてこそ――」

 神饌を調理し、食べることを“直会(なおらい)”と呼ぶらしい。神と人が同じ食べ物を口にすることによって、縁を深める上に守護の力を高めるのだとか。

「では、心して食べろ」

 尊大なもちづき君の言葉のあと、いただきますと口にして春キャベツのパスタをいただく。
 フォークにパスタを巻き付けて、パクリと一口。シャキシャキとした春キャベツの甘さと、サクサクの桜エビの香ばしさが口いっぱいに広がる。

 皆、パクパク食べてくれた。感想を聞かずとも、どうだったかは一目でわかる。

 暖かな日差しが差し込む中で、春の味覚を存分に味わった。

 今度はつごもりさんが、ごちそうさまの和歌を詠む。

「――朝よひに 物くふごとに とようけの かみのめぐみを おもへよのひと」

 同じ言葉を復唱する。

 食後のお茶を飲んでほっこりしたところで、今度は和風カフェ『狛犬』について質問してみた。

「えっと、お店は今、営業しているのですよね?」

「まあ、一応ね」

 なんでも、今日までプレオープンを続けていたらしい。

「営業時間や定休日は特に定めず、幸代の気が向くままに営業していました」

「そうだったのですね」

 メニューはお茶と季節のお菓子のみ。祖母の気まぐれで、さまざまな甘味を出していたようだ。

「幸代が亡くなってからは、お茶とぬか漬けだけで営業していました」

 それでも、イケメン店員を目当てに、一日数名の客が訪れていたようだ。

「やはり、カフェには甘い物が必要です」