提案すると、つごもりさんは嬉しそうにコクリと頷いた。ここでも、「そうかそうか、パスタが嬉しいか!」とよしよししたくなる願望が湧いてくるが、ぐっと我慢した。

 春キャベツのパスタ――私はアンチョビを混ぜて作るのが好きだ。けれど、祖母の家にアンチョビの缶詰などあるわけがなく。代わりに、乾燥させた桜エビを発見した。

 他、タマネギ、にんにく、鷹の爪、オリーブオイルを用意する。

 まず、スパゲッティを茹でる。底が深い鍋に水を注ぎ、塩をひとつまみ振って入れた。沸騰したら、パスタを入れるようにとつごもりさんにお願いしておく。

 その間に、絡める具を作る。フライパンにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れて、火を弱めて炒めた。

 そこに、ザク切りにしたキャベツと薄切りしたタマネギを加える。 火が通ったら、桜エビを加えた。
 ここでほんのちょっと、パスタのゆで汁を加える。塩と醤油を入れて味を調え、茹で上がったパスタを入れた。

 しっかり混ぜたら、“春キャベツのパスタ”の完成だ。
 お皿に盛り付け、トッピングとして桜エビを振りかける。我ながら、おいしそうに仕上がった。

 つごもりさんと一緒に居間に運ぶ。まずは、もちづき君の前に置いた。

「へー、パスタか」

 まさか、祖母の家にパスタがあるとは思っていなかった。今まで、洋食を作ってもらった覚えはないから。

「もしかして、みなさんのために、パスタを買っていたのでしょうか?」

「いいえ、これは近所の人からもらった物です」

 ご近所トラブルを解決したお礼をして、受け取っていたらしい。神饌としてお供えしていたものの、調理法に困って放置されていたのだとか。

「ということは、このパスタは神様から下げ渡された、神聖なパスタなのですね」

「そういうことです」

 というわけで、「いただきます」だけではなく、食前の和歌を詠まなければならないようだ。良夜さんが口にした言葉を、そのまま繰り返すだけでいいらしい。

 まずは、一礼一拍手。それから、和歌を詠む。

「――たなつもの (もも)木草(きぐさ)も 天照(あまてら)す 日の大神のめぐみえてこそ――」

「あっ、ちょっと待ってください。思っていた以上に長っ……!」

 良夜さんに、ジロリと睨まれてしまった。面目なく思う。

 つごもりさんが棚の中からメモと鉛筆を取り出し、サラサラと書いてくれた。