祖母の真似をしたつもりはないのだが……。いつも、廊下にお盆を置いてから、襖を開けていたような気がしたけれど。

「すみません、誰もいないと思って」

「言い訳も一緒だ」

 まさか、同じ言い訳をしていたなんて。これも、血筋なのだろう。

「えっと、その、満月大神様、おはようございます」

「この姿のときは、もちづきでいい。様付けもいらない」

「はい。では、もちづき君と呼ばせていただいても、よろしいでしょうか?」

「特別に許してやる」

 ホッと胸をなで下ろす。

 居間は、祖母が亡くなったときと同じ姿を保っていた。古いちゃぶ台に、私がプレゼントした液晶テレビ、それから、茶菓子に茶葉、湯呑みが入っている棚など。

 驚くほど、いつもの祖母の家である。

 けれど、祖母だけいない。その事実に、胸がぎゅっと苦しくなる。
 と、切なくなっているところに、声が聞こえてきた。

「良夜、早く、ごはん」

「あーもう、わかったから、引っ張らないでくださいよ……」

 やってきたのは、良夜さんとつごもりさんだ。

 良夜さんはほとんど目が開いていない、クマのパジャマ姿で現れた。明らかに、寝起きだろうし、きっとまだきちんと目覚めていない。

 狛犬なのに、低血圧なのか。完全無欠という雰囲気でいたので、意外だ。あと、クマのパジャマ姿が可愛すぎる。

「あの、おはようございます」

「おはようございます」

「今、お味噌汁と焼き魚を持ってくるので、待っていてくださいね」

 つごもりさんも一緒についてきて、味噌汁を運んでくれた。アツアツのお茶を淹れたら、朝食の準備が整う。

「花乃。これ、あんたが作ったのか?」

「はい。お口に合えばよいのですが」

 手と手を合わせて、いただきます。まずは、お味噌汁をひと口。
 ああ……! と声が出てしまった。やはり、祖母特製のお味噌はおいしい。

「これ、幸代の味噌汁の味がする!」

 もちづき君は、驚いた表情を浮かべていた。

「祖母のお味噌を使ったので、同じ味になるのかと」

「いいや、違う。良夜が幸代の味噌を使っても、この味にはならなかった! どうしてなんだ?」

「出汁の違い、ですかね?」

「出汁?」

「ええ。カタクチイワシの煮干しの頭とワタを取ってから、出汁を取るんです」

「なぜ、頭とワタを取る?」