「どう?」

「美味いな、冷めてるけど」

――あはは、そりゃそうだ。

「静かな店だったでしょ」

「ああ、やけに静かな店ですねって言ったら笑ってたな。九時以降は賑やかですって言ってたぞ」

あのマスターに持ち帰り料理の注文をしたり、そんなことをはっきり言う客は笹木くらいだろう。
マスターと彼とのやりとりを想像して、笑ってしまう。

「今度、ふたりでいらしてくださいってさ」

こんな自由人がいたら、常連の女性たちが戸惑ってしまうに違いない。
だからディナータイムはいままで通りひとりで行こうと、羽菜子は思う。

昨日応援してくれた彼女に、負けなかったと報告もしなければいけないし。


笹木は自由人なりに、店の空気を読んだのかもしれない。

「一緒に行こうな、九時過ぎに」

そう言ってニッと笑った。

「うん」


クリスマスイブのマスターの選択ミスの映写会。
お土産にくれたケーキ。

――マスターは魔法使い?


美味しいごはんと幸せを運んでくれる『執事のシャルール』

『またのお越しをお待ちしております』

マスターの穏やかで優しい笑みがリゾットの湯気に浮かんだ気がした。



- 終 -*