「ってことで、あとはハナコに言うだけだったんだ。どうだ? 結婚。俺としようぜ」

――俺としようぜ。
羽菜子の読むファンタジーは恋愛物ではないが、それでも『結婚。俺としようぜ』なんて気軽に言い出すヒーローはいない。

「なぁ、どうなんだよ」


「――うん。わかった」

そんな可愛くない返事をするヒロインもいない。
でも、それが羽菜子の精一杯だった。

だって、頭の中はぐちゃぐちゃで胸はドキドキだし、頬は熱いし、笹木はニコニコしながら覗き込むようにジッと見つめるし、もう何て答えていいか本当にわからなかった。


「ハナコ。お前、ほんと可愛いよな」

「へっ?」
素っ頓狂な声が出た。

「ほら、そうやって真っ赤になるとか、まじ可愛い」
笹木は横からギュウギュウと羽菜子を抱きしめる。

「や、やめてよ、熱上がっちゃう」

「おっと、それは大変だ」
慌てて離れたものの、笹木の話は止まらない。

「俺、うれしかったんだぁー。お前が自分から言ってくれたこと。うれしくって昨日さ、実はうちの課長に報告したんだよ。俺そろそろ結婚しちゃうかもってな。ま、お前に言ってないから、相手はまだ内緒にしといたけど」

なんだか気恥ずかしくて、羽菜子はまたリゾットに目を落としスプーンで掬う。

「美味いか?」

「うん、とっても美味しい。食べてみる?」

アーンと開けた笹木の口にリゾットを流し込む。