彼の弾けた笑いと、握手を求める様子があまりにも自然だったので、つい右手を出していた。
『あんたは?』
『経理課の田中羽菜子』
『よろしくな』
『よろしくお願いします』
握手をしたあの日の彼は、他の新入社員同様、普通の真新しいスーツを着ていたけれど、ネクタイは緩めていたしシャツの一番上の襟のボタンも外していた。
羽菜子が変わらないように、笹木も十年経ったいまも、ずっと変わらない。
自由だ。
「おつかれさま、残業が続いているみたいね」
「ああ、この忙しいのに営業のバカが発注システム変更しろとか余計なこと言い出しやがって」
顔を歪めた笹木は、忌々しげに舌を打つ。
彼は口も悪い。
「おかげで今週ずっと九時過ぎだ」
「大変だね」
「そういやお前も忙しそうだな」
情報システム課は、廊下を挟んで羽菜子がいる経理課のちょうど反対側にあり、ガラス越しにお互いの部屋はよく見える。
基本的に定時で暗くなる経理と、誰かしら残業している情報システム課は対照的だが、それだけにいつも暗いはず部屋に明かりがついていると目立つのだろう。
「うん、年末だから、なにかとね」
この分だとクリスマスもなにも関係なく残業続きだとかそんな話をして、情報システム課を後にした。
『あんたは?』
『経理課の田中羽菜子』
『よろしくな』
『よろしくお願いします』
握手をしたあの日の彼は、他の新入社員同様、普通の真新しいスーツを着ていたけれど、ネクタイは緩めていたしシャツの一番上の襟のボタンも外していた。
羽菜子が変わらないように、笹木も十年経ったいまも、ずっと変わらない。
自由だ。
「おつかれさま、残業が続いているみたいね」
「ああ、この忙しいのに営業のバカが発注システム変更しろとか余計なこと言い出しやがって」
顔を歪めた笹木は、忌々しげに舌を打つ。
彼は口も悪い。
「おかげで今週ずっと九時過ぎだ」
「大変だね」
「そういやお前も忙しそうだな」
情報システム課は、廊下を挟んで羽菜子がいる経理課のちょうど反対側にあり、ガラス越しにお互いの部屋はよく見える。
基本的に定時で暗くなる経理と、誰かしら残業している情報システム課は対照的だが、それだけにいつも暗いはず部屋に明かりがついていると目立つのだろう。
「うん、年末だから、なにかとね」
この分だとクリスマスもなにも関係なく残業続きだとかそんな話をして、情報システム課を後にした。