「ハナコ、経理のいまの仕事好きだろ? 社内恋愛とか別に禁止されてるわけじゃねぇけど、俺のせいで居心地悪くなったら可哀想だからな。だからそういうのすっ飛ばして、いきなり結婚の方がいいと思ってさ」

そんなふうに始まった笹木の話は、長かった。

だから先に結婚資金を貯めようと思った。
そのために自転車で通勤し、残業も嫌がらずにやった。
そしてもう少しで目標額に届きそうなのだと言う。できれば年末年始の休みの間に羽菜子の両親に会って、結婚の了解を得たいのだと。

唯一の心配は、羽菜子に男ができることだったが、小心者の羽菜子がナンパするとかナンパされる心配はないと自信満々に言ってのけ、アンテナを張り巡らせ羽菜子を狙いそうな男には釘を刺しておいたとも言った。

「クギ?」

「ああ、何人かな。『ハナコのこと、どう思ってんスか?』って聞いて、『俺、あいつの保護者なんで困るんでよねー』って言ってやるんだよ」

その何人かが誰にしろ、笹木の勘違いにさぞかし戸惑ったことだろう。
なんだか代わりに自分が謝って歩きたいような気もするが、それにしても相変わらずの笹木の自由ぶりにやっぱり笑ってしまう。

でも彼はこう見えてとても優秀で、社内での評価が高い。
なにしろ羽菜子は経理にいるのだ。彼が同期の中で最も昇給していることも知っている。