目が覚めた時間は目覚まし時計よりも少し前の、八時半。
薬が効いたのだろう。頭痛も治まって熱も微熱まで下がっていた。

笹木が来たのはそれから間もなくのことだった。


「大丈夫か?」
笹木は入ってくるなり、羽菜子のおでこに手をあてた。

「うん。寝たら随分よくなった」

「よしよし、大丈夫そうだな」

自分で触って納得したのだろう。
笹木はあらためて靴を脱ぎずんずんと部屋の中に入っていく。

「ハナコらしい、真面目な部屋だな」
そう言ってハハッと笑う。

真面目な部屋。
何についてそう言っているのかはわからないが、笹木らしいと思って、やっぱり笑ってしまう。

「紅茶だけどいい? そこ座ってて」

「なに言ってんだよ。お前は座れ。それは俺の仕事だ」

と言っても沸かしたお湯はポットに入っているし、トレイの上にカップも出してあるし、紅茶用のポットにお湯を注ぐだけだけど、それでも羽菜子からそれらを取り上げた笹木は、「お前はコタツ」と言う。

「ありがと」

小さなコタツなので、笹木が入ると足がぶつかってしまう。
でもなんだかそれも楽しくて、そのまま足をくっつけた。

紅茶の入ったカップを両手で持つと、なんだかとっても幸せな気がした。


コタツの上にあったミカンに手を伸ばしながら、

「なんで俺に最初に言わなかったんだ?」
笹木はそう言って、不満気に口を曲げる。