その日の夜、羽菜子は熱を出した。

「大丈夫、知恵熱みたいなものだと思うから」
そう言ったのに、笹木はどうしても羽菜子のマンションに来るといってきかなかった。

『ハナコ。俺は、お前の大丈夫は信用しないぞ』

考えてみれば、今日のことについても話をしたかった。

「わかった。待ってるね」

『九時頃になっちゃうかもしれないから、お前んち泊まるからな』

「はいはい」

――え? 泊まるの?
そう思ったけれど、なんだか今更なような気がしたし、頭もズキズキとするし、もうなにもかもがやけくそな感じになっていたので、羽菜子はとりあえず寝ることにした。

九時まで二時間半。
少し眠れば多少でも楽になるだろう。

ベッドに横になって、加湿器から出るシュンシュンと霧のような水をぼんやりと見ながら考えた。

――この部屋に、笹木くんが来るのかぁ。

そもそもあまり物がないので散らかってはいないけれど、我ながら寂しい部屋だなぁと思う。

本棚に並ぶのはファンタジーの小説と料理雑誌。
笹木が興味を持ちそうなものは何もない。お弁当用に冷蔵庫には食材が入っているけれど、なにも作ってあげられないのは残念だ。

そういえば笹木くんの部屋は、なんていうかザックリと自由に物が置いてあって。
「フフッ」
おもしろい部屋だった。

そんなことを思いながら、いつの間にか羽菜子は眠っていた。