正直既にへとへとに疲れ切っていた。
予想を大幅に超える事態に、自分はなにか、とてつもない間違いをしたのではないかという不安で、笹木の暴走についても、声を出して止める気力もないほどに。

そんな羽菜子を察してか、総務部長は優しい声で語りかけた。

「田中さん、今回は大変でしたね。勇気を持って告白してくれてよかった」

「あ、あの。すみませんでした」
「いやいやいいんだよ、謝らないでほしい。いいんだよ、田中さん。君は怒ってしかるべきことをされたんだ。まぁ怒ったのは君じゃなかったが」

総務部長はギロリと笹木を見た。
当の笹木はそんなことは気にも留めないらしく、胸を張ったままムッとしている。

「会社としては二度とこのようなことがないよう注意はするが、なに分こういった事は、私たちの見えないところで起きる。今後ももし、おかしいと思うことがあれば気兼ねなく上司に報告してください」

「はい。ありがとうございます」

最後に総務部長は「まぁ、でも今後は大丈夫だとは思いますが」と、凶暴な番犬に呆れたように、笹木をもう一度ギロリと睨んで話を終えた。




夕方退社する前に羽菜子が岡部課長に確認したところによれば、一番の被害者である羽菜子の申し出により、今回に限りは全員お咎めなしということになりそうだということだった。

「本当に、それでよかったのですか?」