「なにかあったんですかねぇ」

経理部の騒ぎは、廊下を挟んで反対側にある情報システム課の目にも映っていた。

「営業の保坂さんと庶務の見崎さんか。何やらかしたんだ?」

「あ、話が終わったかな?」

岡部課長が立ち上がって何を言ったあと、遅れて立ち上がった羽菜子が頭を下げたところだった。

そんな時、自由人の笹木はフットワークも軽い。
「ちょっと聞いてくる」と、なんの戸惑いも見せずに立ち上がった。


羽菜子が顔を上げた時、廊下の向こうから笹木が歩いてくるのが見えた。

――えぇ!?

彼はあきらかに、経理課に向かって歩いて来る。

彼の場合は、興味津々というよりも一体何が起きているのか聞こうという、そんな感じの表情だった。

これはまずい。
羽菜子は慌てて扉に走った。


笹木が経理課の前に着いた時は、タイミングよく保坂が出てきたところだった。

「何があったんスかぁ」

首を傾げ、拍子抜けするほど間延びした笹木の問いかけに、保坂はホッとしたように頭をポリポリと掻いた。

「いやー、ちょっとナンパしようとしただけなのに参ったよ」
「ナンパ? 誰を?」

――やめて!
扉を開けた羽菜子が耳にしたのは、保坂の――。

「田中さんだよ、あんな地味なお」
そこまで言ったところで、次の瞬間、保坂は床に倒れていた。

キャアア!
見崎史佳の悲鳴が響く。