それにしても"パパカツ"ってなんだろう? あとで調べようと思ってまだ調べていなかったことをぼんやりと思い出した。
大体の想像はつくが。


「とにかく、今回の事は全てセクシャルハラスメント事案として報告させてもらいます」

見崎史佳の悲しげな涙に同情する人は、どうやらこの部屋にはいないらしい。
岡部課長の断固とした発言に異議を唱える人は誰もいなかった。


「ということで。以上です。お戻りくださって結構です」

時折しゃくりあげる史佳のすすり泣きを聞きながら、
泣きたいのは私のほうだよと、心の中でつぶやいた。

正直泣きたいし、ここで涙を見せた方が可愛い気もあるのだろう。

勝ち負けでいうなら、シクシクと泣けば勝てるかもしれないとも思う。
自分は被害者なのだから。

でもそれをしてしまったら最後。コツコツとここで積み上げてきた十年間の色々なものが、自分の心の中で音を立てて崩れてしまうと羽菜子は思った。

何のためにがんばってきたのか。
少なくとも、年下の後輩女子の意地悪で泣くためじゃない。こんなくだらないことで、経理課のみんなにこれ以上迷惑をかけられない。
そう思えば、涙は心の中で乾いていった。


この騒ぎの結果が、これからどう収まるのかは想像もつかないが、受け入れる覚悟だけはしておこう。そんなあきらめに似た気持ちを抱えながら、羽菜子は立ち上がった。