「庶務課の女の子に、バーに行ってみろって。"田中さんが、今夜の相手を探してるから"」

――え?
田中さんが今夜の相手を探してるから?
行ってみろって。そんな、けしかけるようなことまで、言ったの?

あまりにもショックで、羽菜子はふるふると唇が震えて抗議の声すらだせなかった。


そんな彼女に代わり、
バンッ!
机を叩いたのは加住先輩だった。
「なんですってっ!」

「す、すみません。庶務課の子が言うからには本当なんだろうと思って……。本当に、すみませんでしたっ!」

保坂は羽菜子に向かって、直角に頭をさげた。

謝られたところで、なにをどう答えたらいいのだろう?

「……私が、そう見えたんですね」

それを鵜呑みにされるくらい、自分が物欲しそうに見られたということなんだ。
そう思うと悲しくて、羽菜子は力なく腰をおろし、項垂れるしかなかった。

「い、いや、だから確かめようとしただけで」

保坂はそう言い訳するが、昨夜の彼は羽菜子がなにを言っても信じてはくれなかっただろう。確かめようとしたのではなく、明らかに"相手"になるつもりで来ていたはずだ。



「庶務課の誰ですか」岡部課長は淡々と聞く。

「ちょっと、それは……、誤解しているって俺から言っておきます」

「誰ですか」と、なおも言い重ねる岡部課長は、一歩も引く気配を見せなかった。