保坂は店を追い出された時にしたような苦虫を潰したような顔をして、溜息をつく。
あれくらいで騒ぎやがってという気持ちが、片方の目を歪める仕草に現れていた。

確かに実際なにかをされたわけじゃないし、羽菜子もいまのこの状況を望んだわけではない。
これが正解だとか正しいとかそういうことはわからないけど、でも、こうしなければ結局自分は、"バーで男を探している"ことにされてしまうのだ。
このままでは、『執事のシャルール』に二度と行けない。
決着をつけなければ。

負けちゃいけないと自分に言い聞かせて、ジッと保坂を見つめて羽菜子は立ち上がった。

「保坂さん。私は今後も第二第三の保坂さんに、昨日のようなことを言われ続けるのかもしれないという恐怖を、受け入れることはできません」

自分でも驚くくらい、はっきりとした声で言う事ができた。
それは多分、昨夜声をかけて応援してくれたあの女性の勇気のおかげだと思う。


羽菜子と保坂を皆が交互に見つめる中、ガラッと音をたて羽菜子の前に座っている石井が立ち上がった。
そして岡部課長の席に向くと、課長にスマートホンの画面を見せた。

画面を見た課長は、眉間のしわを一層深めて保坂に向き直った。

「保坂。この場で解決したいなら、正直に答えてください。誰になにを言われたんですか」

またひとつ溜息をついた保坂が、もごもごと言う。