「田中さん、これは許しがたい事件よ。課長にもみんなにも聞いてもらわなきゃ」

「――え」


結局羽菜子は、岡部課長を含む経理課全員を相手に説明することになった。

「――というわけで、それ以上なにかされたわけではないんですが、昨夜ちょっと怖かったので、一応相談したほうがいいかと思いまして……」


「わかった」

そう答えた岡部課長の動きは早かった。

営業に電話をして保坂を呼び出したのである。


「君のところの部下の保坂と一緒に来てください」

――え?

「いますぐだ」

岡部課長の口調は淡々としているが、怒り心頭というのが全身から滲みでていた。

「その店のマスターに感謝だね、田中さん」
加住先輩の前に座っている関さんが、そう言ってしきりに頷いた。

「ほんとですよ。それにしてもなにか変な噂でもあるんでしょうか、ちょっと営業の同期に聞いてみますね」
羽菜子の向かいに座る後輩の石井がそう言ってスマートホンを手にした。

加住先輩は怒りが収まらないようで、
「どこからどうみても真面目な田中さんになに妄想してんのかしら、気持ち悪い」
腕を組んでブツブツと文句を言っている。


「みなさん、すみません……」

これから一体どうなってしまうのか。
途方に暮れる思いで羽菜子はしょんぼりと小さくなった。


「いや、言い辛いことをよく言ってくれた」