「あの、ちょっと相談が」



否定といっても、ひとりで保坂に対峙するだけの勇気はないし、うまく事を収める自信もない。

いざとなると根性なしの自分が情けないが、どうしたらいいか、まずは信頼のおける加住先輩に相談することにした。

どこで先輩に話を聞いてもらうかは迷うところだった。
会議室に呼び出すほどでもないし、かといって休憩室や給湯室のように誰がいつ来るかもかわからない場所では話しにくい。となるとここが一番安全で無難だと思えた。ぼそぼそした小さい声なら、部屋の男性たちに内容までは聞こえないだろう。

そんな様々なことを思い巡らせながら、羽菜子は小さな声で、それでもはっきりと加住先輩に声を掛けたのだった。



加住先輩は内緒話を察して、羽菜子に体を寄せて、耳を傾けた。

「実は昨夜……」

『執事のシャルール』での出来事をひと通り説明した。

もし二度目があったら人事課にハラスメントとして相談しようと思っているが、やはり不安なので、いま人事課に訴えたほうがいいでしょうかと。そう言うつもりだった。

ところが、話の途中で驚いた加住先輩が「えっ!」と声を上げたのである。

「ちょっと、なにそれ!」

岡部課長も他のふたりの男性社員も、ギョッとして仕事の手を止めた。

「どうしました?」

「え、いや、あの」