「ありがとうございます、心配してくださって。今日はタクシーで帰ることにしたんです。さっきスマートホンで呼んだので、多分もう着くころだと思います」
「それならよかった。ああいう男はしつこいかもしれませんから、今後も充分気をつけてください。とっさの時はスマートホンのAIに叫ぶといいですよ『××、110番して』ってね」
「なるほど!」
思わず感心して羽菜子は目を丸くした。と同時に感傷的な気分は吹き飛んで、あははと笑顔がこぼれる。
「またのお越しをおまちしております」
「はい。ありがとうございます」
店を出ると一方通行の路地裏にタクシーが入って来るのが見えた。
ホッとしてタクシーに向かって手を上げ、歩き出そうとした時。店の扉が開くカランカランという音がした。
振り返ると、出てきたのは店内にいた女性客。
時々見かける、おそらく羽菜子と同じくらいの歳のOLさんだった。
「あの……」
戸惑ったような彼女の瞳は、あきらかに羽菜子に向けられている。
なんだろうと首を傾げる羽菜子に、彼女はなにかと思い詰めたように小さく頷いてから、口を開いた。
「負けないで……負けないでください。またここに来てくださいね」
そう言って、右手で小さなガッツポーズを作って、ぎこちなく笑う。
――あ。
彼女は、羽菜子の後ろ側のテーブル席にいた。保坂とのやりとりも全て聞こえていたのだろう。
「それならよかった。ああいう男はしつこいかもしれませんから、今後も充分気をつけてください。とっさの時はスマートホンのAIに叫ぶといいですよ『××、110番して』ってね」
「なるほど!」
思わず感心して羽菜子は目を丸くした。と同時に感傷的な気分は吹き飛んで、あははと笑顔がこぼれる。
「またのお越しをおまちしております」
「はい。ありがとうございます」
店を出ると一方通行の路地裏にタクシーが入って来るのが見えた。
ホッとしてタクシーに向かって手を上げ、歩き出そうとした時。店の扉が開くカランカランという音がした。
振り返ると、出てきたのは店内にいた女性客。
時々見かける、おそらく羽菜子と同じくらいの歳のOLさんだった。
「あの……」
戸惑ったような彼女の瞳は、あきらかに羽菜子に向けられている。
なんだろうと首を傾げる羽菜子に、彼女はなにかと思い詰めたように小さく頷いてから、口を開いた。
「負けないで……負けないでください。またここに来てくださいね」
そう言って、右手で小さなガッツポーズを作って、ぎこちなく笑う。
――あ。
彼女は、羽菜子の後ろ側のテーブル席にいた。保坂とのやりとりも全て聞こえていたのだろう。