部屋を包むのは緊張感のある静寂。

耳に響くのはキーボードの打音と伝票をめくるノイズだけ。
時折かかってくる内線電話の他はなんの音もない。

新入社員の頃はあまりに静か過ぎるので、お腹の音が響いてしまったらどうしよう?と、緊張したくらいだった。
実際響いてしまったこともあるが、羽菜子のお腹がグゥと情けない音を立てたからと言って、誰も笑ったりしない。そんなことはなかったように、キーボードの打音は続く。

この部屋に笑顔がこぼれることはなかった。

彼らは何が楽しくて、そこにいるのだろう?
喜怒哀楽という言葉を捨てたのか?

ここは社内で最も冷たい人間の集まりで、嫌われている部署とも言われていた。




「出張費の精算をしてきます」

岡部課長が眼鏡の奥で軽く頷く。

椅子から立ち上がると、他の部屋が見えた。
経理課は総務部のフロアの一角にあり、上半分がガラスで仕切られているだけなので、羽菜子には全体が見渡せる。

目にとまる他の課はどこも楽しそうだ。
笑い声は聞こえなくても、笑顔が弾けているのは見えるし、行き交う人の動きが常に誰かと絡み合って対話をしている様子も見える。

でも彼女は余所の、そんなふうに楽しそうに見えることを、疎ましいと思うこともないし、羨ましいと思うこともなかった。